HD-2D は、NES と SNES の時代のゲームをインスピレーションの源として遡った自然な成果です。
1980年代から1990年代初頭にかけて、ゲームは必要に迫られてピクセルアートスタイルを採用していました。2024年の現在、そのスタイルは、レトロゲーム時代を彷彿とさせたい開発者にとって、もはやスタイルとして選択肢となっています。『UFO 50』から『 Volgarr the Viking 2』まで、2024年のゲームだけでも印象的なピクセルアートが数多く登場しています。しかし、現代のゲームハードウェアでしか実現できない、より現代的なライティングや芸術的なデザイン感覚とピクセルアートを組み合わせたらどうなるでしょうか?
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その答えはHD-2Dです。スクウェア・エニックスが2018年に『オクトパストラベラー』で初めて導入し、商標登録した独特のビデオゲームスタイルです。そして、レトロなRPGや名作のリメイク作品の美的感覚として活用されてきました。来週発売される『ドラゴンクエストIII 聖闘士星矢』のリメイクにより、 HD-2Dは全く新しいレベルに到達し、スクウェア・エニックスのオールドスクールRPGの未来にとって重要なアートスタイルとして確固たる地位を築くでしょう。
ドラゴンクエストIII HD-2Dリメイク – 発売日トレーラー – Nintendo Switch
11月14日に発売される『ドラゴンクエストIII HD-2D リメイク』は、北米では『ドラゴンクエストIII』として知られているファミコンの名作をHD-2Dスタイルで完全リメイクしたものです。HD-2Dスタイルなしでは想像できないほど美しいリメイクです。タイトルに「HD-2D」と冠されていることから、この言葉がゲーム業界の主流になりつつあります。だからこそ、スクウェア・エニックスのHD-2Dスタイルへの歩みについて、プロデューサーの早坂正明氏に話を伺うのは理にかなったことでした。
HD-2Dの誕生
HD-2Dの芽は、2010年代半ば、ショベルナイトやアクシオムヴァージといったタイトルでピクセルアートゲームが人気を博していた頃に生まれました。同じ頃、スクウェア・エニックスの開発者たちは、自分たちが育ったドット絵RPGのようなスタイルのRPGを作りたいと切望していました。そして、それらのゲームは、スクウェア・エニックスとエニックスが合併する以前から、彼らの名を世に知らしめたゲームでもありました。早坂氏は、スクウェア・エニックスのプロデューサーで、 『ブレイブリーデフォルト』などのゲームを手がけた高橋正志氏が、後に『オクトパストラベラー』となり、HD-2Dアートスタイルを生み出したプロジェクトを立ち上げた功績を称えています。
「私は創設メンバーの一人としてプロジェクトに参加し、まずはグラフィックスタイルの検討から始めました」と早坂氏はDigital Trendsに語った。「しかし、『オクトパストラベラー』にとってこれが正しい選択だと決めたというよりは、むしろその逆で、このグラフィックに合うゲームのアイデアや機能を色々と出し合っていったのを覚えています。」

この開発プロセスにより、『オクトパストラベラー』はHD-2D向けに仕立てられたゲームのように感じられ、スクウェア・エニックスがいかにして印象的なピクセルアートを制作し、それをよりダイナミックなライティングや3D背景と組み合わせることで、レトロでありながらシックな雰囲気を醸し出すかを示す好例となりました。当時の『オクトパストラベラー』に対する絶賛レビューは、そのアートスタイルを称賛するものでした。
Digital Trendsの、このゲームに対してより批判的な記事でさえ、ライターのスティーブン・プティットはHD-2Dスタイルを「魔法のトリック」と表現しました。『オクトパストラベラー』は、スクウェア・エニックスにおける非公式のHD-2Dシリーズの幕開けとなりました。モバイルゲーム『オクトパストラベラー 大陸の覇者』とストラテジーゲーム『トライアングルストラテジー』は、HD-2Dタイトルであり、『オクトパストラベラー2』も同様でした。そして、リメイク版の発表がありました。
リメイクに最適
『オクトパストラベラー』の成功を受け、スクウェア・エニックスはHD-2Dのアートスタイルを、8ビットおよび16ビットの名作タイトルのリメイクに応用できると考えました。HD-2Dはこれらの名作タイトルのビジュアルを再現するために開発されたので、リメイクにも活用できるのではないでしょうか。『ドラゴンクエストIII』のHD-2Dリメイクは2021年に初めて予告されました。スクウェア・エニックスは、これまで日本でスーパーファミコンでのみ発売されていたRPG 『ライブ・ア・ライブ』のリメイクを2022年にリリースしました。

これらのプロジェクトで、スクウェア・エニックスはレトロゲームのリメイクの秘訣を解き明かしました。 『ファイナルファンタジーVII』や『ロマンシング サガ2』のようなフル3Dリメイクをしたくないのであれば、HD-2Dはまさにうってつけです。HD-2Dにより、リメイク作品は8ビットや16ビットの美学を維持しながら、ファミコンやスーパーファミコンでは到底表現できないほど美しい映像を実現できます。早坂氏は、この組み合わせがこれほどうまくいったことに、それほど驚きはしていないようでした。
「HD-2Dスタイルは、ピクセルアートのクオリティが最高潮に達していた16ビット時代の黄金期にインスピレーションを受け、生まれたものです」と早坂氏は説明する。「リメイクと一口に言っても、タイトルの特性に合わせた様々な手法がありますが、HD-2Dスタイルは生まれたままの姿だったため、元々ピクセルアートで制作されていたゲームのリメイクには最適でした。相性が合わないなんて、想像もつかないほどです。」

ライブ・ア・ライブとドラゴンクエストIII HD-2Dリメイクをプレイした後、全く同感です。HD-2Dはリメイク、特にオリジナルのフォーミュラを根本的に再構築しないリメイクには最適です。スクウェア・エニックスにとって、オリジナルの芸術的意図を犠牲にすることなく、また現代の観客の支持を失うことなく、最も象徴的なタイトルの美学を再現するための安全な方法なのです。スクウェア・エニックスはすでにこのスタイルでドラゴンクエストIとIIのリメイクに取り組んでおり、今後もこの戦略を継続していくつもりのようです。
ドラゴンクエストIIIの登場
ドラゴンクエストはスクウェア・エニックスを代表するRPGシリーズの一つであり、その中でもドラゴンクエストIIIはシリーズ最高傑作の一つとされています。だからこそ、スクウェア・エニックスが往年のRPG制作に再び注力する中で、ドラゴンクエストIIIのリメイクに着手したのは当然と言えるでしょう。名作から学ぶことほど良い方法があるでしょうか?早坂氏によると、スクウェア・エニックスが今回のリメイクでHD-2Dスタイルを採用したのは、リメイク作品との相性の良さと、欧米のゲーマーにとっての魅力の高さが理由だそうです。
HD-2D スタイルはリメイクに特に適していますが、早坂氏は、ゼロから何か新しいものを作るのではなく、既存のゲームを HD-2D で再現するときに生じるいくつかの課題についても強調しました。
オリジナルゲームであれば、最初からHD-2Dのグラフィックスタイルを前提に、ストーリーやイベント、マップなどを最適化して構築していくことができます。しかし、私たちのようなリメイク作品は、まずはオリジナルゲームの存在が前提となるため、たとえHD-2Dで美しく見えるアイデアが浮かんだとしても、それがオリジナルゲームの持つ魅力を損なう要素であれば、採用することができません。つまり、ゲームを開発していくにつれて、必然的に制約の範囲が広がっていくのです。

早坂氏は、優れたHD-2Dゲームを制作するには、鋭い「芸術的感性」が鍵だと確信しており、『オクトパストラベラー』や『ドラゴンクエストIII HD-2D リメイク』といったゲームのアートチームの素晴らしい仕事を称賛しています。 『ドラゴンクエストIII HD-2D リメイク』の開発チームは、自分たちが何をしたいのか、そしてこのアートスタイルをどのように進化させたいのか、明確なビジョンを持っていました。
拡大を続ける
『ドラゴンクエストIII HD-2Dリメイク』は、『オコットパストラベラー』以来、このアートスタイルにとって最も重要な作品です。タイトルに「HD-2D」という文字を冠し、明確な差別化を図っています。具体的には、他のHD-2Dゲームよりも鮮やかな色彩パレットを採用し、背景ではなくキャラクターやモンスターに主にピクセルを使用しています。これにより、HD-2Dタイトルの幅広いラインナップの中でも、このリメイクは独特のスタイルを確立しています。HD-2Dの進化について尋ねたところ、早坂氏は、現状はむしろアートスタイルの表現力の拡張だと説明しました。
「進化というより、どんどん広がっていると言った方が正確かもしれません」と早坂氏は語る。「例えば、『オクトパストラベラー』の続編『トライアングルストラテジー』ではカメラを回転させることができましたし、『ドラゴンクエストIII HD-2D リメイク』では、『ドラゴンクエスト』らしい色彩感覚を活かしつつ、背景のピクセル表現を省くという手法を試しました。今後のHD-2Dタイトルも、このコンセプトに独自の工夫を加えていくでしょうし、こうしたイノベーションがHD-2D表現の限界をさらに押し広げていくでしょう。」

HD-2Dスタイルはスクウェア・エニックスにとってまさに絶好のタイミングで登場しました。過去10年間、同社は日本製RPGへの真の再挑戦と、スクウェア・エニックスとスクウェア・エニックスの黄金期であった1980年代から1990年代の魔法を取り戻そうとする意欲を注いできました。HD-2Dはスクウェア・エニックスにまさにそれを実現する手段を提供します。レトロスタイルのRPGに独特の雰囲気を与え、新作やリメイク作品にも活用できるだけでなく、芸術的な成長と表現のための十分な余地も提供します。
レトロゲームは人々の心に深く響き、その美しいピクセルアートと美的感覚はその理由の一つです。現代のゲームにおいて、HD-2Dは、そのゲームがRPGの古典作品と対話していることを示す手段となっています。リメイク作品において、HD-2Dは元々はピクセルでできた平面的な画面に奥行きを与え、新旧を美しく融合させます。今後さらに多くの『ドラゴンクエスト』HD-2Dリメイクをリリースするにあたり、スクウェア・エニックスはHD-2Dを全面的に採用しています。これは、レトロ風RPGへの取り組みにとって良い兆候と言えるでしょう。